本当にあった電車での気味の悪い話
今日,電車に乗ったら優先席の一番奥に皮膚は浅黒く,ボロボロの大きなカバンを抱えた浮浪者と思われるようなおじさんが座っていた。
電車は混んでいたが,その人の隣に座っている人は誰もいなくて,みんな見て見ぬ振りをしているような雰囲気だった。
僕もその人の隣に座るのは怖い気がして,おじさんの斜め前のつり革につかまって目的の駅に着くまで時間を過ごすことにした。
僕がスマホを見て時間をつぶしていると,おじさんが持っていた大きなカバンをがさごそと探っていて,何かを探しているような印象を受けた。
「何を探しているんだろう」と思ったが,あんまり見すぎて絡まれるのも嫌なので,またスマホを見て時間が過ぎるのを待っていた。
おじさんのことも忘れてスマホに夢中になっていたが,ふとした拍子におじさんに視線を戻すと紙と鉛筆を持って,一生懸命に何かを書いているような様子だった。
「何かメモでもしているのか」と思ったが,特に気にするでもなく僕はスマホに戻り,自分の時間を楽しんでいた。
そして目的の駅の一つ前の駅に到着したこともあり,そろそろスマホをしまって降りる準備に入ろうとした。その間にもおじさんは何かを書いていた。
何をそんなにずっと書いているのか気になったので,窓からの反射でおじさんが持っている紙を見てみた。そこに書かれていたのは何と誰でもない自分の似顔絵だった!!!鉛筆で自分の顔をデッサンしていたのだ。
思えば,自分に対しておじさんの焦点はあっていないにしても,何度か上を見上げるような動作をしていた。あれは,自分の似顔絵を描くためだったのか。
浮浪者のようなおじさんに男である僕の似顔絵を書いていることに,気持ちの悪さと嫌悪感で早くこの電車を降りたい気持ちになった。なぜ僕を? 若い女性は僕の周りにちらほらといたのに。
目的の駅にたどりつくと僕は飛び出すように電車を降りた。外の温度計は35度を記録し,猛暑であったが,自分は冷や汗をかいていた。